ネズミ対策にも意識の改革が必要
 
 生後3か月目から繁殖可能で、1組の雌雄から800匹に増殖する能力を持つ・・・家畜ならばうれしい数字だが、残念ながらこれはネズミの話。畜産の現場ではネズミは衛生上、経済上な被害をもたらす厄介者。「ネズミ駆除は業者任せではなくまず従業員教育から」という方針のもと、全国で活躍されている株式会社防除研究所梅木厚生社長に、ネズミ対策の最新についてお聞きした。
 
ネズミと現場を「知る」ことから始まる
ネズミのことを知らなければネズミ対策は始まらない。防除研究所では農場から相談を受け、現場に到着するとまず、農場のスタッフにネズミの生態に関するプレゼンテーションを行う。
畜産現場で多いのはクマネズミ。生後12?16週から繁殖可能で妊娠期間は20?21日、年間5?6回の分娩をし、1回の分娩で6?7匹の子供を産む。計算上では1組みの雌雄ペアから1年間に800匹、2年目には100万匹に増える繁殖能力がある。ただし環境条件次第であるが、成獣になるのはそのうち50%、2?3年と言われる寿命を全うするのは5%程度とのこと。「農場は暖かいしエサもあるからネズミにとって天国でしょうね」。事実オフィスビル等で捕獲されるネズミに比べて農場のそれは丸々と太っているのが印象的とのことだ。
「農場によっては1棟の畜舎に3,000匹は生息しているところもあった」とのこと。1匹のネズミは一日に体重の1/3に相当する量(60g程度)のエサを食べることが可能だ。
 
また、対策を始めるにあたって農場のインスペクション(調査)に多くの時間を割く。農場によって生息箇所や行動パターンが異なるからだ。調査結果を図面に落とし込み、農場のスタッフにヒアリングするという丁寧な準備が、効果的な対策につながる。
 
ネズミの被害
 ネズミは様々な被害をもたらす有害獣だ。衛生上では表1のような疾病の媒介者となる。
 また、経済上な被害も無視できない。一日60gを摂取する可能性を考えれば、膨大な量の飼料をネズミに横取りされていることになる(前出の農場の例でいえば3,000匹×60g×365日≒65トン!)。卵や肉のかわりにネズミは畜舎や配線を齧り、糞尿を撒き散らし、食中毒や火事、消費者の信頼の失墜という危険性を産み出す。
 
ネズミ対策の最新
 防除研究所では実際にクマネズミを飼育し、その生態を研究している。その結果オリジナルのネズミ対策法を考案し、顧客に提供している。
 「畜産現場は食品を扱うところ。殺鼠剤になるべく頼らない方法としてケミカルフリーのネズミ対策が理想です」
 
ネズミ衝撃波撃退機「まもるくん?」
 ネズミの嫌う周波数の衝撃波を発生する機械。超音波とは異なり知覚神経を直接刺激するため、ネズミが慣れることはない。
 衝撃波そのものでネズミを駆除することはできない。ネズミを寄せ付けないことで、天井裏など、捕獲作業が困難な場所から、ネズミを「集中捕獲エリア」に誘導することで捕獲率をアップさせることができる。(養豚農場での実施例:グラフ1)
 また、収卵ベルト付近など、殺鼠剤や粘着トラップを置けない場所に設置することも効果的。「ネズミを人間がコントロールする」という発想だ。
 
ネズミ自動捕獲機「ネズミZERO-R」
 防除研究所独自開発の装置(特許申請中)。自動でえさがまかれ、エサに誘われたネズミが装置内に入ったらセンサーで感知し、入口が閉まる。捕獲されたネズミは炭酸ガスで処理され、回収BOXに落とされる。装置の入口が再度開き、再度ネズミを捕獲する。
 一連の処理は自動で行われる。「ケミカルフリー」を目指す防除研究所の次世代装置。
 
このような装置はネズミ対策を効果的に行うためのものである。防除研究所では事前調査に赤外線カメラを導入し、対策方法について現場に合った方法を組み合わせで提案する。「現段階ではクスリを全く使わない方法は困難。このような装置を効果的に使い、極力薬の使用を減らすレス・ケミカルを提案していきます」
 
農場スタッフの意識改革
ネズミ対策の必要性は多くの畜産現場で認識されていることだ。しかし業者任せで思うように効果が出ていない農場も多い。ネズミ対策は業者ではなくまず農場スタッフ自身で行うという気持ちを持つことが重要。「年4回ほどメンテナンスで訪問するが、スタッフのモティベーションを維持させることも私たちの仕事」と梅木社長は語る。
「農場にはまず自分達の農場を隅々まで一度見てほしい。毎日管理している農場をネズミ対策という観点でじっくりと観察し、図面に落とす作業で、今まで見えていない課題が見えることも多い」
一方で全国に5千以上あるというネズミ駆除業者もすべてがプロフェッショナルということも無いようだ。「パッと来て薬を交換して帰っていくだけの業者も居るようだ。逆に生産者がそのような業者を教育してもらいたい」ネズミ対策という作業を通じて、畜産業界全体が発展することを願っている。